587827 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

わたしのブログ

わたしのブログ

続きです。

奥さんが買い物に出かけるとき「なるべく静かにしていてね。」と念を押された。私は無籍者である。もしも内地に帰還できるようになっても籍が無いために残留されてしまう。大連はソ連軍の管轄だ。大連市民権を得るにはどうしたらよいか?考えれば考えるほど淋しくなってきた。「これは本気で考えなくちゃならない。置いていかれたら、・・。」と思うと焦りが出てきた。奥さんが帰ってきた。ニコニコ笑いながら、「今日、近所の奥さんたちにからかわれちゃったわ.あんた変わったわねとか、女ぶりがあがったなんていうのよ。きまりが悪かったわょ。」「帰ってくるときよいことを聞いたわ。毎月。二回位。老虎難から密航船が出ているそうよ。船長は日本人で博多市に着くと言っていた。ただし、夫婦者だけで荷物は手に持てるだけ。お金は二人で一万円だって。私が出すから夫婦になりかえらない?」私はグラッと来た。なんといったって無籍者の私である。まさにそのことを考えている矢先のことだ。「これは」と思った。「私内地に帰ったら白紙になってお別れするわょ。」なんと魅力的な話であろうか。「ねぇ、二人で来月まで良く考えてみない。それから、浪花町で日本の少年がソ連の女将校にジープで連れて行かれたそうよ。」「何するんだろう。」といぶかしがっていると、「私にはわかるような気がする。」といった。
 外に出ると奥さんは色々なニュースを持ってきてくれる。甘粕大尉が大連まで逃げてきてピストル自殺をしたとか。関東軍司令官・山田乙造が自分の母ちゃんをつれて飛行機で逃げ損なってソ連軍の捕虜になったとか。巡査、刑事、憲兵が満人に捕まり諸兄された。・・・・等・・・・。よいニュースはない。
逢坂長で集団脱走兵が抵抗したのでソ連兵に射殺されたそうだ。全ては運である。何日位いたのだろう下。もう十二月に入っていたと思う。寒くなってきた。


© Rakuten Group, Inc.